苦手だけど、好きにならずにいられない!
君は誰って、失礼な!
「日村、社長、成田を出たってよ!屋上エアポートに出迎え頼む!」
右耳にスマホ、左耳に受話器を当てた寺島新太(てらしま あらた) が叫ぶ。
「えー、ナオミさんいないんですか?」
私は膨れつらを作り、キーボードを打ち込む手を止めずに答えた。契約書を作成してる最中だから、出来れば一気に終わらせてしまいたかった。
「ナオミはB.C.Estate agentの重役会議にデレク社長代理で出てるから。
俺は見ての通り、神業電話対応中。よって、お前がいくしかねえの!
ドウ・ユー・アンダスタン?」
寺島先輩は中途採用2年目で今年30歳。
ちょっと寄り目気味のクリクリお目目が彼を人懐こい感じに見せている。短く刈った髪をツンツンに立たせちゃって、割とおしゃれ野郎。
東京に実家があるのに、地方の国立大学卒業という実はインテリ君。そのくせ、高校生みたいないたずらっ子な面がある。
その一つがキャスター付きの椅子に腰掛けたままで、社内のあちこちを移動しすること。顔面は営業マン向きの爽やか好青年なのにちょっと変わり者。
「ひーむーら。
あと15分で着くらしいぜ」
寺島先輩がしっしっと手で払う仕草をする。はー、ムカつく。
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