苦手だけど、好きにならずにいられない!
「どうぞ」
30分ほど前に聞いたのと同じ声がして、ドアを開けるとシンプルな応接セットのそばにデレクが立っていた。彼の右手には私がさっき届けたシアトル・コーヒーのカップ。
「社長、お呼びでしょうか」
不機嫌そう…
地雷踏んだかも?怒られる。この様子だと絶対に怒られるーー先に謝った方がいいかな…
「先ほどは失礼したね」
デレクはふっと柔和に笑った。
「はい?」
「キミ、髪を切っただろ?」
「え、はい…」
私は髪に手をやった。15センチほど切ったのは一週間前のことだ。
「僕は女性の変化に弱いんだ。気を悪くしないでくれ。とても似合う」
デレクはコーヒーのプラカップで乾杯!みたいな仕草をした。そのアメリカンなカッコ良さに私は、不覚にも軽くめまいすら感じてしまった。
「…で、このコーヒーだが」
ぎくり。
「はい。お気付きになられましたか」
デレクは不可解なものを見るように、私の顔をじっと見つめた。
「僕のオーダーとは違うね。わざとかい?」
私は視線だけを下にした。デレクの顔面は整い過ぎ濃過ぎで、ずっと見てると疲れてしまうのだ。
「はい。わざとです」
「なぜ?」
デレクの片方の眉が跳ね上がった。