苦手だけど、好きにならずにいられない!


花束に2つ折りになった名刺くらいのカードが挟み込んであるのに気付いた。こんなのは初めてだ。


怖いもの見たさか、開くのに少しも迷いはなかった。


『いつまでも、君を待つ』


直筆ではなく、無機質にパソコンで打たれた文字。


「やめてよ……気持ち悪い!」


独り暮らしのワンルームに私の叫び声が響く。
見なきゃ良かった。

思い出したくない光景が脳裏をよぎる。思いがけない訪問者に驚く宗馬と洋子のあられもない姿。


それは、忘れたくても忘れられない悪夢。
せっかく花瓶を用意したのに。送り主の影がちらつく物をそばに置くことなんて出来ない。


「ごめんね」

意を決して、花とカードを燃えるゴミのビニールに放り込んだ。







クライアント巡りは散々だった。
一応、どこも話は聞いてくれて、リーフレットも受け取ってくれるのだけれど、反響はなかった。


セブ、タヒチ、フィジー。

旅行会社に行けば、素敵な南の島のパンフレットがたくさん置いてある。
どこも日本人客向けのサービスが整っている。

知名度のないリゾートアイランドは、苦戦するのが当然だ。

完全どシロウトの私の為に、デレクは企画書のたたき台を作って寄越してくれていたから、大雑把な道筋はあるものの成功する気がしない。


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