苦手だけど、好きにならずにいられない!
食事中、無礼講、と言われたのをいいことに、私はナオミに「どこに住んでらっしゃるのですか?」と訊いた。ナオミの謎のプライベートに迫るべく。
するとナオミは肩を竦め、形の良い唇を少し歪めた。
「料理も掃除もする時間がないの。だからここのホテル50階に住んでる」
えー!ホテル住まいだなんて!
しかもこのB.C. square TOKYO Hotelなんて宿泊料高そう…
放心する私の代弁をするかのように寺島先輩が身を乗り出す。
「では、デレク社長は?ご自分でベンツ運転されてますよね?」
あ、それ、私も知りたい。
「秘書の立場からすると、その質問にはノーコメントね。デレクに直接訊いてちょうだい。なかなか会う機会はないでしょうけど」
私と先輩の好奇心に、ナオミの反応はクールだった。
でも、嫌な感じじゃなかった。
B.C. square TOKYOにオフィスを持つ会社の社長ともなればボディガードを雇う人は普通にいる。セキュリティは重要だ。
2時半になり、私と寺島先輩は店を出た。
会計を素通りして店を出るのは、変な感じだった。グラスにしたら、2杯程度なのに昼間のワインは予想以上に効く。
足元の絨毯が雲みたいにフワフワしてる感じがする。先輩は私よりもっと飲んでるから、もっとフワフワしてるはず。
もう仕事なんかする気になれないけど、明日のクライアントとの打ち合わせに向けて、資料整理だけでも済ませておきたい。