苦手だけど、好きにならずにいられない!
「それでですね、忙しい中すみませんが、どなたかお引き取りをお願いしたいのですが」
「わ、わ、分かりました。あいにく上の者は不在なので、私でも構わないでしょうか…」
「はい、いいですよー
なるべく早くお願いしまーす」
田中さんは案外明るく電話を切った。
事の重大さが分かってきて、膝がガクガク震えだす。引き取りってなんか判子とか必要なのかな。
痴漢は犯罪行為。下手したら寺島先輩は警察に捕まってしまうかもしれない。
それにしても本当にやったんだろうか。
酔っていたから、勢いでやってしまったのか。昼間の弁護士おじさん達にもっと愛想良くして、お近づきになっておけば良かった〜…
警備員さんと管理人の田中さんに挟まれ、パイプ椅子に座る寺島先輩は、ひどく興奮していた。
「だーかーら!あの女をここに連れて来いよ!あと、あの正義のヒーローぶった野郎どもも!
どこに行きやがったんだよ!馬鹿やろー、一言謝れってんだよ!クソやろー」
「どういう事なのですか?」
私は田中さんに訊いた。温和で優しそうな初老の男性だ。この人、知ってる。
前にオフィスの電灯のスイッチがぶっ壊れた時、この田中さんに修理してもらった。