苦手だけど、好きにならずにいられない!
「自分の部下が犯罪者にされそうになったのだから、デレクがボスとして黙っていられるわけがない。
新太はparaisoの優秀な社員の一人よ。当然、抗議すべき。
偶然にデレクの友人が30階のロウ・オフィスにいるの。彼を通じて、女の会社に正式な謝罪を求めることにしたわ。
この件は個人の問題では済まされません。会社には従業員の使用責任というものがありますから」
アナウンサーみたいなナオミの知的な喋り方に感心する一方で、デレクとナオミの部下を想う気持ちに、私は静かに感動していた。
paraisoは表面上、平常運転に戻った。水面下で示談交渉が進められ、大きな菓子折りの箱がデレク社長宛に送られてきた。
なのに、寺島先輩は、事件以来休みが続いていた。
3日経っても4日経っても出社するという連絡がない。
そうなんだ、これはごめんなさいだけで済む問題じゃない。
そんな事にすぐに気付けなかったのは、私が女で、被害者になることはあっても加害者にはならない立場だからかもしれない。
寺島先輩にとって、痴漢扱いは人生で一番屈辱的な出来事だったんだろうな。
確か先輩は家族と住んでると言ってたから、自殺してるとかはないと思うけれど……