苦手だけど、好きにならずにいられない!
心臓がばくばくと早鐘を打ち始める。
立ち止まっちゃダメだ、そのまま気付かないふりをしなくては…
私はまた歩き出した。
「おい、無視するな!」
周りの人々が何事かとこちらを見てる。
仕方ない…声の主と対峙するか。振り向くしかなかった。
「莉子、ずっと探してたんだよ。いつもこれくらいの時間なのか?」
やっぱり。スーツ姿の元カレ木佐宗馬が立っていた。黒いアタッシュケースを持っているところを見ると宗馬も仕事帰りのようだ。
「……」
質問になんて答えたくなかった。
それなのに宗馬の眼鏡の奥の瞳は恋人に会った時のように、喜びに溢れていた。
「元気そうだね。今帰り?」
「…ええ」
私は俯いた。
宗馬の足先が嫌でも目に入る。
スーツなのに黒いスニーカー。
革のビジネスシューズなんて脚が痛くなるし、客先に行くわけじゃないからスニーカーで充分、なんて言い張るところも、かわいいと思ってた私は世界中どこを探してももういない。
心の奥で呟く。
なんの用かしらないけど、どんなことがあろうと一生あなた許せない。だからもう私の前に現れないで。