苦手だけど、好きにならずにいられない!
私、日村莉子(ひむら りこ)がこの会社【paraiso】に入社したのは三ヶ月前。
それは、ちょっとしたシンデレラストーリーだ。
大学卒業後、大手ファミレスに就職した私は、新人研修が終わるといきなり副店長にされてしまった。
高校生から飲食のバイトはしていたけど、男性店長からあれこれ押し付けられ過労死するかというところまで追い詰められた。
ある時、親友がB.C. square TOKYOにあるカフェに誘ってくれた。
【Seattle Coffee】
シアトルに本店があるというその店は流行に敏感な人々で賑わっていた。
テイクアウト客が主流というカジュアルなスタイルなのに、優秀なバリスタを置き、上質なアラビカ豆にこだわる為か場所柄か、一杯の値段は少々高め。
けれどこの店にはそれだけの価値が充分にある。
コーヒーの芳醇な香り。満足げな人々の顔。
注文客と短い談笑を交わすエプロン姿の店員。
いいなあ……
空回りばかりの自分を思うと
溜め息が出てしまう。
あ……
ふと小さな貼り紙が私の目に飛び込んできた。
[シアトル・コーヒー
スタッフ募集
日本初上陸のコーヒーショップです。
初心者可、経験者優遇]
可愛いマグに入ったコーヒーをゆっくり飲むうちにある考えが大きくなっていく。
「私、このカフェで働きたい…」
そこから先の私の行動は電光石火の早さだった。接客業のスキルには自信があったし、当時開店したてのシアトル・コーヒーには人材が必要だった。
ただのアルバイトになってしまったけれど、大好きな職場で陽気な同僚たちと働く楽しい毎日。