苦手だけど、好きにならずにいられない!
いつしか顔馴染みの常連さんも出来た。
ナオミ・ヒルもその中の1人。
豊かな黒髪のウエーブを揺らし、黒ハイヒールで颯爽と歩く彼女は、大勢の客で賑わうシアトル・コーヒーでも特別目立つ存在だった。
なにしろ、店内の男性客の視線が一斉に、それこそ漫画の効果線みたいにナオミに釘付けになるのだ。
ボン、キュ、ボン!なナイスバディを仕立ての良いスーツで武装しちゃってるのだから、女の私でも、それはもう罪です!って叫びたくなる。
そんな周囲のゲスな視線なんかお構いなしなのがナオミのいいところ。
いつの頃からか、彼女が来店するとカウンターにいる私にウインクを飛ばしてくれるようになった。
それを合図に私は陶器のカップにカフェ・ラテを注ぎ、ナオミのテーブルまで運んだ。
余裕があるときは、バリスタでもある店長に教わったラテアートで猫や花の絵を描いてあげたりして。
私のラテアートを見ると、パアッと目を輝かせるのが子供みたいで愛らしい。あんな人、世の中にいるんだねえって仲間内でも評判だった。
そして、ある日。
運命的な出来事が起きた。
今まで『ありがとう』ぐらいしか言わなかったナオミが、私に小さな白い紙片を渡してきた。