苦手だけど、好きにならずにいられない!
「私はそんなにお腹が空いていません。軽いものか、何も食べなくても大丈夫です」
「それでは、蕎麦は好きかな?
B.C. square TOKYO7階の『しなのじ』は美味しい蕎麦を出してくれるんだ」
しなのじって和食屋さん、知ってる。俳優の中条吾一がお気に入りの店としてテレビで紹介してた。
前は通ったことあるけど、結構良いお値段だから素通りしたことしかないよ…
「お蕎麦でしたら食べられそうです」
まだデレクと一緒にいられる。思いがけない食事の誘いに胸が高鳴る。
でも、なんとなくナオミに申し訳ない気もした。
でも、ナオミは捌けた女性だから、食事くらいでジェラシーを燃やすなんてしないだろう、大丈夫。いちごのお土産もあるし。
『しなのじ』の店内に入る。
松の木とししおどしがある小さな池のこじんまりとした日本庭園があり、それだけで気後れしてしまった。
庭園の周りにいくつかの半個室がある、という凝った作りで出迎えくれた女将さんの着物も地味ながら上質なものだと一見して分かる。
「あら、社長。いらっしゃいませ、お久しぶりでございます。今日はカサゴとハマグリの良いものが入ってございますのよ。いかがでしょう」
デレクが上客なのは、京なまりの女将の気の使い方で分かる。