苦手だけど、好きにならずにいられない!

「いや。今日は蕎麦を頼むよ」

「かしこまりました。では、ただいまお茶をお持ちいたしますので、お待ちくださいませ」


午後6時前で時間が早いせいか、予約していたみたいに私達は席に案内された。

女将と入れ替わりにやって来た若い給仕係がお茶を注いでくれた。

ほっぺたの赤い田舎っぽい子だ。
からし色の着物がまだ板についていない。

「本日お世話させていただきますニシイ、と申します。御用がありましたら、テーブルに備え付けのボタンで、お、お申し付け下さいませ」


セリフ覚えたてみたいに少したどたどしいのが微笑ましい。
テーブル席は、足元から天井までドーンと大きくとった窓から東京のビル街の夜景が楽しめる。


「ここの蕎麦は少し変わってるんだ。
北海道産の蕎麦粉を店で手打ちするんだが、それをざる蕎麦にして、麺つゆではなく、長野の名水に浸して食べる。水蕎麦というんだ。

とても上品で量が少ないから、二枚目を頼む。これは塩につけて食べるんだ。
そして三枚目は天ぷらと麺つゆで食べる」

「へー、水で…」

まずそう…と内心思う。

グルメぶっちゃって。塩はともかく水につけて美味しいなら世話ないじゃんね?



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