苦手だけど、好きにならずにいられない!
「この店の蕎麦粉は大きな石臼でゆっくり挽いてるんだそうだ。
蕎麦の実は熱に弱い。だからなるべく負担をかけないようにする。
人手がかかるからたくさんは挽けない。だから蕎麦屋にはしない、と女将が話してくれた」
「そうなんですか…」
「失礼しまーす。三枚目のお蕎麦と海鮮天ぷらの盛り合わせになりますー」
ニシイさんが大きなお盆から次々に料理をテーブルに移す。
大きな海老天やらキス天が乗った竹かごを私とデレクの前に一つずつ置いた。
アレ…?
「ああ…彼女のは野菜天ぷらを頼んだはずだが?」
デレクが温和に尋ねるとニシイさんは真っ赤になって慌て出した。
「あああっ!そうでしたか?
す、すみません、私、間違えてしまって…申し訳ありません!あの、どうしよう、作り直ししてお持ちいたしましょうか?どうしよう、ごめんなさい」
ごめんなさい、ごめんなさい、を連発して頭を下げるニシイさん。
こんな高い料理をオーダーミスしてしまうなんてきっとあの女将にこっぴどく叱られるだろうな。
厨房の板さんから怒鳴られるかもしれない……なんて飲食業界にいた私はつい彼女に同情してしまう。
「ああ、頼むよ。早くしてくれ。莉子。とりあえず僕のを一緒に食べよう」
デレクが間違えた分の天ぷら盛り合わせを下げさせようとするのを私は手で制した。