苦手だけど、好きにならずにいられない!
「すみません、私、ウイスキーは好きではないのです」
「なら。ワインにしよう。シャトーマルゴーでいいね」
手早くウイスキーとグラスをカウンターの下に仕舞い、代わりにワインのボトルとワイングラスを並べる。
「社長、マジシャンみたいですね」
「そんなことないさ。僕は不器用な男だ。自分で嫌になる」
せっかくだからカーテンは開けたままにした。豪華な応接セットに向かい合わせに座る。
「莉子。乾杯」
「乾杯。社長、今日は本当にありがとうございました。良い気分転換になりました。とても楽しかったです」
「僕のほうこそ楽しかった。振り回してしまったんじゃないかな?と気にしていたんだ。楽しかったといってくれてうれしいよ」
長い足を持て余すようにしてるデレク。ワイングラスなんか持つと映画のワンシーンみたいだ。
ぎっしり内容の濃い今日一日は、今朝6時にこの応接間に集合して始まった。
そしてまだ陽の登らないうちに、地下パーキングに停めたデレクのシルバーのベンツで出発したのだ。
デレクは疲れたのか夜景をぼんやり見る。
これまでと違い、しんとしているせいか話題が……
いいや、無理して話さなくても。ワインの酔いが心地よくなってきて、私もデレクに習い窓の外を眺めることにした。