苦手だけど、好きにならずにいられない!
それにしても遡ること24時間前は、
『ワールド・リゾート・フェア』が終わり、ビッキーのことで落ち込みながらひとりこの夜景をみていたというのに。
24時間後の今、イケメン社長と高級ワインをサシ飲みとか、えらい違いだ。
タイムマシンでドラエもんとのび太が見たら、同一人物かとたまげるだろう。
「…ピアノが弾きたくなってきた。聴きたくなかったら耳を塞いでくれ」
デレクがお茶目にウインクして、おもむろに立ち上がった。ワイングラス片手に持って。
「社長、お弾きになるのですか?」
私の言葉にデレクはくるりと向きをかえ、私の方に向けて人差し指を振った。
「堅苦しい喋り方はやめてくれ。デレクでいい。今はね」
「……はい」
はい、と言うしかない。
ボスと部下なのだから。
「莉子のためのアルページオ」
ポロンポロン、と可憐な音色が響きデレクの独奏会がはじまった。
私の知らない曲。自動演奏とは違い、温かみのある旋律。
血の通った音色。
デレクの指遣いを感じる。
時々、弾きながらデレクがふっと私の方に視線を送る。
潤んだ青い瞳が許しを乞うように見えた途端、私の身体が小刻みに震えだした。