【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
・たとえば焦がれる夏の宵
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「ねえねえひのちゃんー!
彼氏できたってほんとー!?もう噂になってるけどー!!」
──エアコンが機能して、随分と快適になっている教室の中。
それでも扉を開けっ放しにして出ていく男子たちがいるから冷気が逃げちゃう、と不機嫌なわたし。そんなわたしの周りには、百夜月幹部たち。
綺世と別れてからも、わたしたちの生活にはそう大差ない。
授業は普通に受けるし、休み時間も会話するし、なんなら今だって一緒にお昼食べてるし。
「ゆゆ……
一体いま何時だと思ってんの?」
そんな中飛び込んできた声にいち早く反応したのは、綺麗な箸使いでお弁当を食べていた万理。
彼が言うのはごもっとも。百夜月7代目最後の幹部である斎木(さいき)ゆゆ。彼が学校に来たのは、さっきも言った通りお昼休み真っ最中。
「違うんだって万ちゃん……!
昨日の夜もバイトだったから寝坊して遅くなっちゃっただけなのー!」
月に何度してるんだっけ、その言い訳。
もう6月も終わるけれど、毎月3分の2は「バイトだから寝坊した」って言って遅刻してる気がする。日によって時間はばらばらだけど、今日はひどい。
「ゆゆちゃん〜。
もういい加減バイトやめたらいいでしょうに」
「だ、だって。
妹たちにきらきらした目で「あれがほしい!」「これがほしい!」ってお強請りされたら断れないんだよー!?」
「……ゆゆってそんなに姉妹多かったっけ?」
「お姉ちゃんがふたりいて妹が3人いるのー!」
……それは大変そうね。
わたしもひとり中学生の妹がいるけど、とにかく手がかからなくてお利口な妹だ。たしかゆゆの妹はもっと小さい子だったはずだし、大変なんだろう。
「妹たちに物買ってあげるだけならまだしも、2番目のお姉ちゃんからカツアゲされるんだからねー!?
彼氏とのデート代ぐらい自分でなんとかしろって言ってるのに……!」
……可哀想に。
お姉さんの言いなりで、さらには妹たちにきらきらした目を向けられて断れないゆゆの姿が簡単に想像出来る。