【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
もぐもぐとシフォンケーキを頬張って、わずかに冷めてしまったカモミールティーに口をつける。
それを横目に夕李が、なぜかわたしの分までお支払いをしてくれた。……おかしいな。
「誘ったのはわたし、よね?」
「いいじゃん、奢られとけって。
はじめから奢られる気でいる女には奢らねーから」
「……ありがと」
取り出した財布をバッグにしまい、「おしあわせにー」なんてアサギさんに見送られてカフェを後にする。
ここ最近は夕李とよく一緒にいるなと思いながら、荷台に乗せてもらってその背中に顔をうずめた。
「……ねえ、わたしにキスマークつけたでしょ」
信号待ちで自転車が止まる間。
風の音が薄れる中で聞いてみたら、「あー」と言葉を濁す夕李。もう、とわざとらしく不機嫌を醸し出して腰に回す腕に力を強めてみる。
「悪かったって。
出来心っつーか……独占欲だってわかれよ」
独占欲。──"俺の"って主張するための、赤い印。
恥ずかしかったんだからと、家に着くまでずっとそれについて文句を言い続けてみたら、家の前で自転車を降りた瞬間に腕を引かれて。
「っ、」
とつぜん触れ合うくちびるに、反射的に目を閉じる。
びっくりしたけど、それ以上に優しいキスで溶かされて、思わず彼のシャツをつかんだ。何度も触れるせいで、崩れ落ちそうになる。
「ばか……」
恥ずかしさが一通り過ぎた頃、こぼれるのは口を突いて出ただけの軽い暴言。
ふっと笑った夕李が、平然として「またな」と言ってくるのが悔しくて。ぎゅっと抱きついて、おどろく夕李の胸に顔をうずめた。
「……ひの」