【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
優しく耳元で囁くように、名前を呼ぶ夕李。
囁くせいで甘さも色気も増す声に、顔が赤くなりそうで困る。夕李の左手がわたしの腰に回されたかと思うと、右手で頬を撫でてくるからいたたまれない。
「そのさわりかた、はずかしいからやめて……」
「頬熱いなと思って」
「っ、うるさい……熱くもなるわよ」
「ひの」
「っ、だからな、」
なに、と言いかけたくちびるが、またやわらかく食まれて。
わたしの感情を置いてけぼりにしていっぱい口づけてくるせいで、頭の中は真っ白。
「ん……、キスマークで文句言われたから。
普通のキスなら、文句ねーだろ?」
「ありまくりなんですけど……!」
「はいはい。じゃーな。
なんかあったら、いつでも連絡してこい」
まだ文句は言い終わってないのに。
ぽんぽんとわたしの頭を撫でた夕李がバッグをわたしに手渡し、止めた自転車に跨るから、それ以上は何も言えなくなって「またね」と見送った。
「……、」
家に入って妹とただいまおかえりを交わし合い、リビングに立ち寄ることなく部屋に向かう。
ゆっくりとくちびるに触れてみれば、淡い熱が広がるせいで、つい数分前のキスを思い出して顔が赤くなる。……夕李の、ばか。
でも、すべて受け止めてくれたことは本当に感謝してる。
ひとまず着替えなきゃ。そう思って、立ち上がった拍子に。──スカートのポケットに入れていた連絡先の書かれたメモが、静かな部屋でかさりと音を立てた。