【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
にっこり。
彼女が笑みを浮かべれば、「なんでもねえよ~」とあしらってる彼。ふたりがとっても仲良しでお互いを大事に思ってるのは、言われなくてもわかる。
「でもいいよねえ、高校生。
なんだかんだ一番青春できる時期だろ~?」
「かなさんとチサトさんって、いつ出会ったのー?」
「初対面は中学ん時だけど、付き合ったのは高校の時だよねえ。
俺らのまわりは特殊だったからなんとも言えねえけど、ほかにも5組高校のときから付き合ってて結婚してるしな~」
「じゃあかなさんたちも入れて6組ってことですよね……すごい。
1回も別れずに結婚まで行ったんですか?」
こういう話題は、女子の方が食いつくものなのか。
深く聞き出そうとしてる音ちゃんと、黙ってはいるけれどちゃっかり話は聞いているわたし。チサトさんはふわりと笑って、「いや……?」と彼女を振り返る。
「同棲してたとき、かなちゃん実家帰ったりしたよ~。
1ヶ月放置されて俺は完全に死にかけてたけど」
つまり、上手くいってることばかりじゃないらしい。
そのときに別れたんですか?と小さく聞いてみれば、彼は「別れてはねえんだけど」とまた甘く微笑む。
「俺が、どうしてもかなちゃんじゃなきゃだめだったから。
……距離置いたりしたけど、別れようって思ったことは1回もねえかな」
この人じゃなきゃだめだって。
そう思ってもらえるぐらい、かなさんはきっと素敵な人なんだろう。チサトさんがどれほど彼女を大切にしているのかなんて一目瞭然。
「ま、そのとき喧嘩した理由も俺のくだらない嫉妬だったってだけで。
……結局最初から最後までベタ惚れなのは俺の方」
素敵な夫婦だと思う。
たとえばそれが彼氏でも、旦那さんだったとしても。自分の方がベタ惚れだって言ってくれる人が、そばにいてくれるのはうらやましい。
「……、」
隣の綺世が、ちらりとわたしを見る。
カウンターテーブルの下で、こっそりつないだ手。……音ちゃんに見えないんだからそんなことする必要はないのに、いまは触れていたかった。