【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-



「これでも結構必死でかなちゃんのこと口説き落としたけど。

……やっぱり回りくどいことするより、普通に好きって言われる方が嬉しいよねえ?かなちゃん」



「……いまはそれでもいいと思うけれど。

あの頃のわたしは、ただ普通に"好き"って言われただけじゃ靡かなかったと思うわよ。女の子が素直になるって、予想以上に難しいんだから」



ね?と言葉を投げかけてくる彼女に、こくんとうなずいてしまうのは。

やっぱりわたしも、簡単には素直になれないからで。触れてるだけの淡い熱に、感情がゆらゆら揺れる。



「女の子は考えすぎなんだよな~。

男側からすれば、好きな女が多少わがまま言おうとかわいいもんなんだからよ~。素直に思ったこと言ったって度が過ぎなければ喧嘩にはならねえって」



「……そうだっけ。

千郷よくわたしに対してキレてない?」



「なんでこんなにくそかわいいんだよ、ってキレてる。ごめんな理不尽で。

でもやっぱりかわいいかなちゃんが悪い」



「……はいはい、もういいから。

本人にわたしのことで惚気られても困る」




ああ……しあわせそう。

こうやってふざけたように交わす言葉も、素っ気なく見えてちょっと嬉しそうな彼女も、そんな彼女が愛おしくて堪らないって表情の彼も。



結婚しても、まだ恋してるって思わせるような。

そんな憧れる雰囲気を、醸し出してる。



「、」



つないだままの手を、彼がくっと引いて。

それを疑問に思って何気なく視線を向ければ、綺世がやわらかく微笑む。その表情を見たのがひさしぶりなせいで、胸が痛い。



わたしの好きな、優しい微笑み。

付き合ってた頃はよく見せてくれていたのに、今は滅多に見せてくれなくなった。わたしが彼と過ごす時間が少なくなったせいか、それとも……



「……ねえひのちゃん」



料理が出来上がってそれぞれ食事をしながら、全員で何気ない会話をしている最中。──唐突に、音ちゃんに名前を呼ばれる。

顔を上げて「なぁに?」と返事したら、彼女は残りのホットサンドを口に入れて咀嚼した後、飲み込んでから口を開いた。



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