【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
そのあとふたたび、かのが夕李と電話を交代して。
「迎えに行くまでよろしくね」と言えば、彼は快く頷いてくれた。電話を切ると、ひとまず隣の綺世に妹を迎えに行くことを伝える。
「わかった。ここ出たら、地元まで送る」
「……いや、大丈夫よ。
いつも送ってくれるけど二度手間でしょ?」
「気にすんな」
大丈夫と言ったのに「送る」と念押しされては、断ることも出来ない。
素直に「ありがとう」と言えば彼は満足げに目を細めるから、とくんと心地良く音を立てる心臓には気づかないフリ。
「ごちそうさまでした」
みんなはまったり談笑してから各々帰るようで。
先に帰ることになったわたしと、それに付き合ってくれる綺世。自分の分のお金を払おうとしたら、「俺の奢りだからいい」と綺世に止められてしまった。
「……いくら音ちゃんの前だからって、
綺世はわたしのこと甘やかしすぎなのよ」
かなさんに「またいつでも来てね」と優しい笑顔で見送られ、駅に向かう途中で。
奢りと言われたことに頬をふくらませているというのに、綺世はふっと笑う。それから「いいだろ」とわたしの手を引き寄せ恋人つなぎ。
「……こんなにも甘やかしたくなる女はお前だけだ」
「そういうのは、音ちゃんのいるところで言った方がいいんじゃない」
「……辛辣だな」
ただ辛辣なわけじゃない。
辛辣にしていないと、甘い言葉ばかりくれる彼に溺れてしまいそうになるから。箍が外れてしまわないよう、あえて素っ気なくしているだけだ。
「……どうして、音ちゃんだったの?」