【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
音ちゃんからは、付き合った時には自分を好きじゃなかったって話は聞いてる。
綺世は、"好きな女"を忘れるために新しく彼女を作った、と。──手早く、話をまとめれば。
うぬぼれでもなんでもなく、綺世はわたしを忘れるために好きではなかった音ちゃんと付き合ったということになる。
……だけど、どうして音ちゃんだったのか。
「いちばん身近な女だったからだよ」
「……身近、」
「万理が好きな女は誰だった?」
……ああ、そういうことか。
万理は、音ちゃんが好きで。万理と綺世は、いとこ同士で。いとこの好きな女の子が、偶然にも手近な存在で。──それなら。
「万理の……
好きな子を奪ったことになるんじゃないの?」
万理にとって、音ちゃんは誰よりも大切な女の子。
たとえいとこ同士だろうと、万理は音ちゃんを綺世に奪われたことになる。なのに、ふたりの関係は何も変わることなく平然としていられるものなんだろうか。
「もし音が、俺を好きだったら……な」
「、」
「あいつの本命は、俺じゃないだろ」
本命は……白銀の、総長。
だからこそ、わたしたちは情報を流している音ちゃんのことを、追放しようとしているのだけれど。……なんとなく、違う気がした。
「……ずっと、何かが引っかかってるの」
得体の知れない何かを自分だけでは導ききれなくて、口にしたそれに綺世が首をかしげる。
その姿だけでも綺世がすると綺麗に見えるなと苦笑してからホームに滑り込んできた電車に乗り、人のいない扉付近にもたれかかって彼を見上げた。