【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
「……"音ちゃんが裏切ってる"っていうあの話を。
実際に聞いて、音ちゃんに初めて会った時から、ずっと何かが引っかかってるの」
違和感が生じてる。
なのにそれの正体が、一向につかめない。
「きっと難しいことじゃないはずなの。
マジックの種明かしをされたら、ああって納得するような、ほんの小さな違和感なのに。……簡単なことのはずなのに、もう答えが出かかってるのに、気づけないの」
正解の欠片が目の前にあるのに、手を伸ばせない。
……だけど手を伸ばせば壊れてしまうような、そんな気もする。
「……夏休み中。どこか行かないか?」
ぐるぐると音ちゃんと出会った日のことを思い出しているときに、届く声。
あからさまな話題の切り替えなのに「え?」と聞き返してしまったせいで、思考が途切れる。たった今まで考えていたことは跡形もなく消えて、残るのは綺世が放った言葉だけ。
右手薬指に嵌めた指輪を、そっとなぞるように。
彼の指が動いて、そのくすぐったさに余計に思考が乱される。
「どこかって、どこに……?」
「ひのの好きなところなら、どこでもいい。
……あいつらには何も言わずに、ふたりだけで」
「……、綺世。
わたしに彼氏がいるってこと、忘れてない?」
車内に人はまばらだけれど、そこそこ席が埋まるほどの混み具合。
そんな中でお揃いの指輪をして恋人つなぎをしているのに「彼氏がいる」と口にすれば、変な視線を向けられかねない。
もともと大きな声では話していないけれど、さらに声を潜める。
それを見た綺世がくっと眉間にシワを寄せたかと思うと、わたしの耳元にくちびるを寄せた。
「忘れるわけないだろ。
お前に男がいるから、こうやってわざとらしく仕掛けてんだろうが」
なにか甘いことを言われたわけじゃない。
教室でアイスの話をした時の方が、声だって甘かった。……なのに、顔が、熱くなる。