【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-



むっと顔を顰めるのに頬を赤く染めるかのはかわいい。

この子を好きな男の子は、きっとたくさんいるんだろうなと思う。叶わない恋をしてる人間は、この世界に何万人といる。……ううん、もっといる。



だけどその中で、両想いになれるのは。

……そう考えるだけで、たやすく綺世の方へと手を伸ばしてみたくなる。



でも、それなら夕李はどうするの?

わたしの身勝手な感情だけでつなぎ止めて、そばにいられることがしあわせだと言ってくれているのに。時間をかけて好きになりたいと、思った相手なのに。



「好きな人と上手くいくといいわね」



「……うん」



お姉ちゃんもね、と。

応援してくれている妹にくすりと笑って、「ありがとう」と伝える。お昼ご飯食べてないけど大丈夫?と聞けば、かのはクレープでお腹いっぱいと笑った。



すこし早いけれど、水着を買った上に浴衣まで買うという結構な奮発をしたせいで、所持金は少なめ。

これ以上使うのも、と地元に引き返して家にたどり着くと、お母さんに「あらまぁ」と苦笑された。




……かのは友だちと遊びに行くって言ってたけど。

そもそもわたしに至っては、誰とも水着を着るような場所に行く約束はしてない。



ゆゆから、『ねえねえみんなで海行こうよひのちゃんも一緒に行こうよ遊ぼうよ』と怖いメッセージが届いていたのはあえて無視した。

そのあと『無視しないで……』と泣き顔の顔文字付きで送られてきたけど、『行かないわよ』って送っておいた。



だってみんなでってことは、綺世もいるわけだし。

あんな風に告白されてくちびるまで奪われたのに、平然とみんなの前で接するなんて無理。



そもそも綺世はあの後、みんなにわたしとの間にあった出来事を話してるのかもわからないし。

ふう、と小さく息を吐いてから買ってきた水着と浴衣がシワにならないよう片付けて、ふたたび出掛ける支度をする。



地元のみんなで集合する場所は、家から徒歩で20分。

夕李が迎えに来てくれるのは待ち合わせ時間の30分前で、みんなで集まってご飯に行ってから、川辺で花火というプランだ。



特にほかにすることもないから、と課題を抱えてリビングに下りる。

シャーペンをすらすらとノートに這わせていたら、用事をしていたお母さんから「ねえ、ひのちゃん」と何気なく声をかけられた。



「最近……誰かと、何かあった?」



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