【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
お母さんは昔から鋭い。
きっとわたしのことも、かののこともよく見てる。シャーペンを置いてくるりと振り返っても、用事の最中のお母さんと目が合うことはないけれど。
「……何もないわけじゃないっていうか、ほんとはあったんだけど。
自分でもまだうまく掴みきれてなくて」
「ええ」
「……恋愛ってむずかしいね」
つぶやいたわたしに、お母さんは小さく笑って。
それから「恋愛なんてそんなものよ」と、わたしよりも長く生きてるからこその言葉をくれる。わたしは未だに、お母さんとお父さんの馴れ初めをあまり詳しく知らない。
「ずっと一緒にいられると思ってた人と、案外あっさり別れちゃったり。
合わないと思ってた人と、長く一緒にいたり」
むずかしいものなんだから、逆にむずかしく考えなくていいのよ。
そう言ったお母さんに、うん、と返すのが精一杯。
「人の恋の有効期限って、4年なんだってテレビでやってたわよ。
だからそれ以上好きでいられる相手なら、その間に何度も何度も惚れ直してるの。……4年先でも好きでいられると思う相手が、好きな人なのよ」
「、」
4年先。──"ずっと"なんて抽象的な言葉よりも、よりリアルで鮮明な将来。
それを考えた瞬間に、真っ先に思いつくのは好きになりたいと思った相手の夕李ではなく。
「傷つけることを怖がってたら、恋なんてできないわよ」
今もまだ、消えない片想いの相手。
……片想いというよりは、両想いなのだけれど。
「ひのちゃんは器用に見えて不器用よね」
……うっ。
それ確か前にも誰かに言われた、と思いながら。何気なく誤魔化すようにつけたテレビは、ニュースの時間。