【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
『7月22日午前2時頃、東京都都内に住む──』
流れるニュースを見て、嫌な話だなと思う。
複数のチャンネルで放送されているその事件は、ふたりの女性が亡くなった連続殺人の容疑者が、三人目の被害者とともに遺体で発見されたというもの。
警察の調べによれば、三人目の女性は犯人の妻、そして先に殺害されていたふたりは愛人。
しかも奥さんを殺害した後に自分も自殺しているのだから、なんとも言えない苦味が後味として残る。
「物騒な事件ねえ……」
「……奥さんどんな気分だったんだろう」
自分の愛していた人が、浮気していた挙句ふたりの女性を殺害した。
そして結果、自分も愛していたはずの人に殺される。
……ただただ、愛した人が残酷な殺人鬼と化したことに悲しみを覚えるのか。
それとも、そんな人を愛した自分を恨むのか。
「しあわせだったかも、ね」
自分でつぶやいた言葉に、我ながら驚く。
だけど、間違ったことは思ってない。もし愛した人が浮気していたことも、浮気相手を殺したことも知らずに。何も知らずに、亡くなったのだとしたら。
真実を知るよりも、しあわせだったのかもしれない。
そう思うのは、わたしの自己満足だろうか。
「……ひのちゃん、お母さん買い物行ってくるけど。
わたしが帰ってくるまでに出掛けるなら、かのちゃんにお母さんがいないことも伝えていってね」
「うん。いってらっしゃい」
お母さんを見送って、今度こそ勉強をはじめる。
静かな部屋には、さっきまでのニュースから一転。かわいい動物の動画が流れていて、そんなものだろうなとぼんやり思った。
自分のことであれば、きっとどこまでも強くトラウマとして残るはずなのに。
他人のことであればそれは徐々に記憶から薄れていって、しばらく経ってふと目にしても"ああ、そんなこともあったな"ぐらいにしか思わない。