【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-



自分の気持ちすらまともに定められない、大人でもないわたしが他人の記憶や感情にどうこう言える権利はないけれど。

それでも、"なかったこと"にだけは、したくない。



「……かのちゃん、部屋入ってもいい?」



──黙々と時間は過ぎ去り、間もなく夕李が迎えに来る。

勉強の手を止めて彼女の部屋をノックするも、返事はなし。ゆっくり開いた扉の先で、かのはベッドに横になって眠っていた。



「……寝ちゃってるのね」



かのはまだ、スマホを持ってないし。

起こすのも可哀想だなと、かのにわかるよう書き置きしたメモを置いて。バッグを手に家を出たところで、迎えに来てくれた夕李とばっちり視線が合った。



「うわ、すげえ。タイミングぴったりだな」



「……うん、わたしもびっくりした」




ふふっと顔を見合わせて笑う。

戸締りをしてから夕李に駆け寄って、そういえば自転車に乗ってない夕李と会うのはひさしぶりだなとどうでもいいことが頭に浮かんだ。



「ちょっと前まで、頻繁に会ってたからな。

1週間会わねーと、なんかひさびさに感じる」



「そう、ね……」



言わなくちゃ。

綺世に告白されたことも、キスされたことも。……だけど伝えたところで、わたしはどうしたいの?



「疲れた顔してるけど、夏バテでもしたか?」



「平気、よ……

ちょっと色々、疲れてるだけ……」



いっそ夏バテの方がマシだ。

そんなこと言えるはずもなくて、ただ夕李の手に黙って手を重ねたら、ぎゅっと握り返してくれた。



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