【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
なんとなくあいつがお前のこと忘れてないのはわかってた、と。
するする硬い結び目を解くように、わたしの言いたいことをひとつずつ口にする夕李。
「だから、らしくねーけどあいつの前でお前と親しくしてみせたり、わざとキスマつけたり。
……それなりに"俺の"って見せつけるような、ガキっぽいことしたんだけど、」
「……夕李」
「あいつに告白されたら、お前たぶん俺のこともう好きにならないんだろうなって思ってた。
……ひの、ずっとあいつのこと好きだったし」
んなの振り向くわけねーじゃん、って笑う顔が苦しそうだから。
ひどいことを言ってるのはわたしの方なのに。泣きたいのは夕李なのに、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「っ、すきに…なりたかったの……
好きって言ってくれる夕李を好きになって、綺世のことは諦めたかった……っ」
「……わかってるよ」
優しい声。
夕李は、優しすぎる。いっそ「別れるなんて許すわけない」って怒ってくれればいい。怒って、強引にキスするぐらいのことはしてくれればいい。
なのにそんなにあっさり受け入れられたら。
どうしようもないほどの罪悪感だけが募って、わたしの胸を焦がす。……ああ、そうか。罪悪感を募るほどのことをしたんだと、わたしに刻み付けるには、こっちの方が効果があるのか。
「っ……、わたしのこと嫌いになってよ」
「ひの……」
「嫌いになって……、もう顔も見たくないって言ってよ。
そしたら……たとえ好きになれなくても、ずっとそばにいてくれた人に嫌われるだけの痛みはわたしに残るっ。夕李を傷つけた分だけ、わたしも傷つくのに、っ、」
そんなことで、夕李の痛みに適うわけがないとわかってはいるけれど。
それでも、夕李ひとりに痛みをすべて押し付けることを考えたら、圧倒的にそっちの方が良かった。
「……そんなことできるわけねーじゃん。
言っただろ。俺、ひののことずっと好きだったって」