【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
ぽん、と頭に乗せられた手。
そっと撫でるように、左右に動いて、それが止まったかと思うと、今度は強く抱き寄せられる。
「ほんとはさ……誰にも渡したくねーよ。
このまま俺が別れないって言ったらひのは、ずっと俺のそばにいようとしてくれるんだろ。お前は優しいから、そういうヤツだってわかってる」
「っ、」
「でも、なんつーか……付き合った時から、こういう予感してたっていうかさ。
俺、ひののことすげえ好きだし、ひのとずっと一緒にいたいって思うんだけど。……思うのに、なぜか想像出来ないんだよ」
わたしも、想像出来なかった。
夕李のそばで、いつかかなさんとチサトさんみたいに、夫婦になれるのかと考えた時。夫婦の形はいくつもあれど、どうしても、夕李と……って、想像が出来なかった。
「俺さ……たぶん、まっすぐにほかのヤツのこと思ってるお前のことが好きなんだよ。
まわり見えねー、ってぐらい恋してる時のひのがいちばん輝いて見える。……ひのが惚れた相手がもし俺だったら、逆に好きにならなかったかもな」
ぜんぶぜんぶ、夕李の優しさ。
わたしに、罪悪感を持たせないようにするための、どうしようもないほど優しいわたしの彼氏の嘘。……見破るのは、たやすいから。
「……わたしが綺世と出会ってなかったら。
夕李のこと、好きになってたかもしれない」
「まじか。お前が聖蘭学園に進学しねーように誘導尋問するためだけに、人生やり直してーな」
「っ、ふ……、ばか、笑わせないでよ」
真剣な話してるんだから、と。
茶化してくる夕李の胸を軽く叩いて、顔を上げる。浮かんだ涙を自分で拭って、「夕李」と近くで名前を呼んだ。
「……好きでいてくれてありがとう」
「ん。……お前も。
数ヶ月、俺のそばにいてくれてサンキュ」
こつん、と。
額を合わせてくる夕李に、もう一度「ありがとう」と返す。付き合ってた時に惚気を聞いてくれていたのも、泣いてるときに慰めてくれたのも、いつもいつも夕李だった。