【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
──放っておけない。
どこか、義務とも取れる言葉を放つひの。そんな重い話で呼び出すつもりはなかったけど、どちらかといえば気分が沈んでいるのは事実で。
「何となく飲みたくて誘ったんだわ〜。
……ああもちろん、ノンアルだけど」
『当たり前よ。
……行くから、しばらくそこで待ってて』
「ん〜」
ゆるーく返事をして、電話を終える。
すこし肌寒い夜にこぼしたため息の方が、夏の夜よりも湿っていて何故だか笑えた。……昔から、だけど。
自分の感情が限界になればなるほど、どんどん俺は笑顔になるタイプらしい。
マナー的には良くねえけど、駅からすこし歩いたこの公園の付近を通る人は滅多にいない。腰掛けている直方体の石の上で、ごろんと背をつけて空を仰いだ。
こんな場所からじゃ、綺麗に星は見えない。
……ひのの地元だったら、もうちょっと綺麗に見えるんだろうか。
「あ〜……、」
そういえば呼び出しておいてなんだけど、ひのと会うのは終業式の日以来だ。
何があったのか、完全に俺らからの誘いを断り続けているひの。明日からお盆に入るせいで、夏休みも残り2週間。
綺世に「ひののこと誘わねえの?」って聞いたら、毎日のように誘ってるけど断られてるらしい。
……あいつって、そんなに積極的に女口説くタイプだったっけ。
いや、それぐらいに。
……綺世が本気になってるだけ、か。
綺世も、そなたも。……万理も。
俺から見れば、羨ましい。どんな感情よりも色濃くて、理性なんかじゃ歯止めがきかなくて、本気になれる唯一の感情。
それを向けられる相手がいるってことが、ただ純粋にうらやましい。
俺は誰かを好きになったことはないし、好きになりたいとも思えないし。
誰かにすこしでも、本気になれたのなら。
俺の窮屈で息苦しいこの時間も、ちょっとぐらいは和らぐかもしれない。