【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
「シンデレラって、あるじゃん。
……俺、あれ実はシンデレラが策士だったんじゃねえかと思うんだよねえ」
「……策士?」
「そ、あれって元々継母やら姉にいじめられてたシンデレラが、舞踏会に魔法をかけて連れていってもらうんだろ~?
でもさ、ガラスの靴を落としたのはわざとだったかもしれねえじゃん?」
魔法がとけてしまうからと逃げるように帰る途中で、彼女はガラスの靴を落とす。
だけど真実は違って、王子様がそれを拾ってくれるかもしれないという考えが、頭の中にあるのだとしたら。
「お金持ちと結婚したいっていう、さ。
女のドロドロした部分があったかもしれねえだろ?」
「……シンデレラが、お金持ちの王子様と結婚するためにわざと手がかりになる靴を落としたってこと?
童話の中に出てくる"心優しい女の子"ってあくまで他人から見た評価で、本人の心の中はわからないものね」
確かにないとは言えないかも、と。
笑ったひのの、右手。細い指からそっと指輪を抜き取ると、彼女が不思議そうに首をかしげた。
「綺世に、告白された?」
「、」
よくこんなの入るな、と輪の小さな指輪をじっと見つめてから、何もせずに指へと戻す。
そうすれば昔からずっとそこにあったみたいに、違和感を与えないままおさまった。
「どうして、告白されたと思うの?」
探るわけでもなく、ただただ疑問を口にした、とわかる声。
さあっ、と吹いた風はまわりの木々を揺らして、俺らの元まで熱を届ける。肌寒いのを考えたら、ちょうど心地いい温度だ。
「なんとなく?そんな気がした」
自分で言っておきながら、いい加減だなとは思う。
思うけど特にそれ以上の感情は芽生えないし、なんとも思わねえけど。元の位置にもどった指輪に触れたひのが、言葉を紡いだ。