【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
綺世はそれももちろん断ってたし。
ひのには、デートしようなって約束してくれてたらしい。……でも夏からずっと続くアピールを近くで見てきたひのにとっては、色々限界だった。
「わたしが限界なのも悟ってたらしい綺世は……
わたしが突然別れるって言い出したことに反対しなかったの。でもね、ほんとは決めてたことがあって」
空から移された視線が、ゆっくりと指輪に向けられる。
愛でるようなそれは、息が詰まるほどの愛おしさだけで出来てる。……綺世もときどきそんな視線で、お揃いの指輪を眺めてた。
「春になって先輩が卒業したら……、
また、わたしから告白するつもりだった」
する"つもり"だった。
それが適わなくなった理由は、言われなくてもわかる。先輩が卒業して精神が落ち着いたら告白しようと決めていたひの。──だけど。
「春休み中に、あいつが彼女を作ってたから?」
痛い話だな。すれ違ってばっかりだ。
別れるじゃなくて、距離を置きたいって言ってたら。あいつは、新しい彼女なんてつくらずに、ひののことを待っていたかもしれないのに。
ほんの些細なすれ違いばかりが積み重なって、ずるずるとここまで来てる。
だけど俺が綺世から聞いた話は、そうじゃない。
「……綺世さ。
ひのの調子がおかしいのは先輩が原因だってことちゃんと気づいてたし、その分だけひのに優しくしてた」
「……うん」
「ほんとはあいつ、新しい彼女とかそういうのなしで。
……ひのが自分のところに帰ってくんの、待つつもりだったんだわ」
あの頃綺世は、別れると言われたことにそれなりにショックを受けていた。
といっても、ひのの調子が悪いこともわかっていた上で別れたために、同じように先輩のことが落ち着いたらひのが戻ってくるんじゃないかという期待も捨てきれないままで。
ちゃんと、ひののことを待ってたけど。
「ひのと別れたあとの、春休みにさ~。
相変わらず先輩に、また『今回デートしたらもう付き纏わない』って提案されて。……あいつ、春休み中に先輩との関係終わらせるために、その誘いに乗ったんだよ」