【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
・手を伸ばせば夢の中
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カーテン越しの空は白み始めて。
部屋に徐々に差し込む光と、木々にとまるセミの大合唱。──午前6時。
「う、そでしょねむれなかった……」
つぶやく声が、夏の暑さに溶ける。
熱帯夜で寝れないならまだしも、昨日はかなり涼しかった。なのに眠れなかったのは間違いなくみやの発言のせいだ。
"実在しなかった"の意味を考えて、眠れなかった。
なら一体音ちゃんはなんだっていうんだ。綺世もたしか自分の彼女であることを認めてたはずだけど、本当に意味がわからない。
「っ、た…、」
とにかくベッドから身体を起こすも、ひさびさの寝不足で頭痛が走った。
目も完全に開いてくれないし、のろのろ重い身体を引きずるようにして洗面所に向かう。夏なのに水ではなくお湯で顔を洗って目元を温めたら、すこしだけ疲れが緩和した気がした。
……もちろん気がしただけで、ふらふらするけど。
「ひのちゃん体調悪いの?」
「ちょっと、ねむれなくて……」
気づいたら朝だったと言えば、両親から心配そうな顔をされる。
それから「1日安静にしてなさい」と言われて、こくんとうなずいた。朝ごはんは食欲がないからスープとフルーツだけにしてもらって、部屋にもどってからまたベッドに横になる。
本当に……意味がわからない。
ぐるぐるするけど、考えたら余計に目眩がする。
何も考えずに眠りたいのに、目は冴えたまま。
みやのことを心配して行ったはずが、帰り道には彼に「大丈夫か?」と心配されてしまった。……まったく大丈夫じゃないです、みやさん。
「おねーちゃーん」
ごろごろベッドの上を転がってたら、コンコンとノックして部屋に入ってくるかの。
扉を開けて目が合ったかと思うと、「まだ寝てるのめずらしいね」と大きな目をぱちくりさせる。