【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
いっそお前なんかもう好きじゃないって言ってくれた方が、よかったのかもしれない。
そうすれば。……こんなにも甘い幸せに孕んだ毒に、喉を締め付けられそうになることはなかった気がする。
甘いものは好き。スイーツとか。
でも、砂糖をそのまま飲み下す勇気はない。甘すぎる毒って、きっとそういうことだ。
何に対しても、度を超えるのは良くない。
駅まででいいと言ったのに「突然呼び出したお礼」だなんて託(かこつ)けて、結局家まで送ってくれた昨夜のみや。
バイバイと口にする寸前に、彼から取り上げていた細いカッターナイフを手渡せば。
もう必要ないかなと困ったように笑って、「帰ったら捨てるわ」と言うから。
思わず泣いてしまった。
彼にとって手首の傷は、生きていることを実感するための証で。滴る赤い血でしか生を感じられなかった彼が、カッターナイフを手放す。
精神安定剤を自ら捨てるようなもの。
傷はこれ以上つけて欲しくない。わたしと出会ってからは一度も傷をつけていない彼が。誰でもなく、「ひのがいるからもういい」と言ってくれたことがうれしかった。
ひとりの命を救うって、大変なこと。
だけどそれ以上に、わたしはひとりの心を救ってあげることの方がむずかしいと思ってる。
──だからこそ。
軽い気持ちで救うことの出来ないその心を、わたしがいるから傷つけないと言ってくれたことが何よりもしあわせで。
恋愛感情を抱く相手ではないけれど、「何かあったらいつでも連絡して」と彼のことをきつく抱きしめた。
いつか。みやにとって、大事な女の子が現れてくれればいいと思う。
それこそ。
彼の過去をまるごと、愛してくれる人が。
「……おま、なんか顔色悪くね?」
ゆゆのバイト先には行ったことがないから、連れて行ってくれるらしいそなたとは駅で待ち合わせ。
電車を降りて改札を出てすぐ、連絡しなくてもわかる目立つ金髪に駆け寄れば、いきなりそう言われた。
「ええ、っと。……徹夜、です」
「ばかだろ……!
誘ったの俺だけどなんで来た……!」