【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
……そんなに怒らなくても。
大丈夫だと思ったから来たのに、と黙り込んだわたしが、自分の言葉で予想以上に落ち込んだと思ったのか、途端に「あー」と戸惑ったような顔をする彼。
「悪い、そうじゃなくて。
……ほら、お前あいつにも告られて色々大変だろ?だから、すげえ悩んでんなら呼んで悪かったって思っただけで、」
「……うん、ありがと」
大丈夫だよ、と。
言えば、ホッと胸をなで下ろす彼。その姿にくすりと笑って、歩を進めながら彼を見上げた。……ちっちゃいわたしからすればみんな高いけど、特にそなたは背が高いな。
「そういえば、昨日みやから呼び出されたの」
「はあ?
……まじかよ。あいつ何か言ってたか?」
「ううん。
ただ情緒不安定だから来て欲しいって言われて、話しただけ。綺世の話もしたんだけど、」
──実在しねえよ?
そう自信ありげに笑みを浮かべたみやの表情が、頭から離れない。一体どういうつもりで、彼はあれをわたしに告げたんだろう。
「綺世が、わたしに彼女ができたって春に言ったでしょう?
……その彼女が、実在しないって言われたの」
「は?あいつ余計なこと……、
あー、まあ、な。実在しねーよ」
しれっと。
認める彼に、思わず眉間に皺を寄せた。しねーよ、じゃなくて。わたしが気になるのは、その経緯と。……音ちゃんの、存在。
「じゃあ、音ちゃんは一体なんなの」
「それは俺に聞かなくていーんじゃね?
気になんなら、直接綺世に聞いてやれよ。『わたしのことすきなくせに』って」
……そんなこと言えるわけないでしょ。
わたしだって、夕李の元に逃げたりしたけど。結局心は彼にしか向かないんだから、本当にたまらなく好きで困る。