【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
「俺、昔お前に言っただろーけど。
親にそれなりに厳しく育てられてきたからな。その反発みたいにこうやって暴走族入って、あいつらと仲良くなって、」
そなたの両親は、どちらも学校の教師らしい。
おばあちゃんは着物の着付けの先生で、礼儀作法や言葉遣いなんかは特に厳しく育てられたんだと彼が言っていた。……だけど幼い頃の彼には、それもすぐに限界。
「お前とも出会ったけど……
1年ちょっと? お前に黙ってたことあるんだわ」
言葉遣いもあえて雑にして、髪も金に染めた。
全力で反発した彼に両親は怒ったけれど、それすらどうでもいいと思ってしまうようなけだるい日々。
厳しい囲いの中で育てられたそなたにとって、いまの幹部のみんなとの出会いはすごく自由なものだった。
百夜月には、みややそなたのように何かしらの過去を抱えてる人間もいる。現にスミだって、今も女嫌いを完全には克服できてない。
そんな中で、過去を抱えている人と過去を抱えていないものの居場所を求めている人が混ざり合う。
反発だって喧嘩だってもちろん起こりはするけれど、それでもみんな仲間意識はすごく強い。
……だから。
今はもう姫ではないわたしのことだって、ああやって慕ってくれる。
「……どうせもう気づいてんだろ?
──俺が、ずっとお前のこと好きだって」
間違いなくわたしの肩が揺れたのを、きっちりとその切れ長の瞳におさめた彼。
肯定も否定もしないわたしを見かねたように「だろうな」とつぶやくから、静かに深呼吸して口を開いた。
「知ってたかって聞かれたら、知ってたけど。
……知らないフリをしてたわけじゃないの。ただ、あなたの口から直接聞いてなかったから、いままで話題にすることもなければうぬぼれもしなかったってだけ」
「別にうぬぼれたところで怒るヤツなんかいねーだろ、事実だしな。
……でも、お前が遠慮することもうぬぼれることもねーような、"そういうヤツ"だって知ってたから惚れたんだよ」
……惚れたんだよ、って言われても困るんですけど。
はいそうですかって、簡単に流せる問題でもないわけだし。くちびるを結んで黙り込めば、そなたが長い腕を伸ばして、テーブル越しにわたしの頭を撫でた。
「フラフラしてっけど、お前のことだけは本気で好きだと思ってんだから。
お前は俺にそんな顔しなくていい。……好きなヤツのために、好きって言ってやれ」
どれだけ相手が大事でも。
好きって言うことは、簡単なことじゃなくて、好きな相手がほかの人を好きなのに笑顔を見せるのは、むずかしいこと。……なのに笑えって、言ってくれる。