【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
万音に手招きされて、なに?と彼女に近寄れば。
耳元でぼそぼそと囁かれて、うんうんとそれを聞き取ったあと。一瞬だけ嫌そうな顔をした綺世に近寄って。
「あのね、綺世。お願いがあるの」
「……なんだ?」
普通に聞いてくれてるけど、なんとなく嫌な予感がするって表情に出てますよ綺世さん。
腕を彼の背に回して身体を密着させると、彼を見上げたまま"おねがい"を口にする。
「……キス、して?」
「、」
一瞬。
彼が瞳を揺らしたかと思うと、すぐに息を詰めるような口づけが落ちてくる。お願いしておいてなんだけど、みんなの前でキスされるのはめちゃくちゃ恥ずかしい。
「……あーあ、綺世の理性崩壊したよこれ」
「音すげえ策士だな〜」
「ふふー。ひの小さいから、元から上目遣いなんだもん。
それなのにあんな風にかわいくお願いされたら、綺世も止まんないよねー。今ある程度身構えてただろうけど、絶対ひののことかわいくて仕方ないって思ってるよ」
「……俺ほんと万音のこと敵に回したくない」
「えー?
万理には普段からいっぱい不意打ちでちゅーしてあげてるじゃんー」
「……ほんとさ、そういうのどこで覚えてくんの」
そこにいるのに、みんなの会話が遠くで聞こえるような気がする。
なかなか離してもらえないから、綺世の服をぎゅっと握り込んで。くちびるを薄く開くと深まる口づけに、生理的な涙が浮かんだ。