【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
第一章 突然の依頼
・百夜月とわたしと彼
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──この季節は、いつもいつも気だるい。
何もしなくても蒸れるような暑さに滲む汗も、わずか1週間という寿命の中で鳴く蝉の声も、ひどくけだるく感じる。
「暑い……」
まわりは田舎って言葉がぴったりの風景が広がるだけで、ビルなんてないのに。歩いているだけで灼熱の太陽に焼かれているような気分になる。
はあ、と無意識にこぼれるため息は気だるさを含んで重い。お気に入りの白いセーラー服を着ているというのに、まったく気乗りしないのがその証拠だ。
「うお、なんだなんだ。
せっかくセーラー服美女に遭遇したって思ったら、なんかすげー暗いな。俺の気分も落ち込むわ」
「いまそんな言い合いする気力もないんだけど」
「あー、はいはい。後ろ乗せてってやろうか?」
……自転車の後ろ、ね。
ふたり乗りってだめじゃなかったっけ、と思いながらも、この気だるさにはさすがに勝てない。自転車の前かごにバッグを放って、荷台に乗せてもらった。
「ちゃんと掴まってろよー?」
「んー」
腰に腕をまわして、まっさらの白いシャツに顔をうずめる。
いつもと変わらない匂いに落ち着いて、重い心がちょっとだけ晴れた。──それもわずか20分ほどでおしまいで、「ほらよ」と渡されたバッグを受け取る。
「……送ってくれてありがとね」
「おー。んじゃあな。また」
「……うん」
わたしと彼は、地元は同じだけど学校は別々だ。
それ相応に施設が整う都会から自転車を20分程度走らせればあっという間に周りが田畑の田舎に突入する。そこが、わたしたちの地元。