【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
すごくすごく、わがままなこと言ってる。
迎えに来てほしいってことはつまり、明日も学校まで送ってほしいってことで。自転車でわたしを送るの、きっとすごく疲れるはずなのに。
「わかった。時間あとで連絡するわ」
「……ありがと」
簡単にそう言ってくれるから、笑顔でお礼を言う。
……夕李はずっと、わたしのそばに、いてくれた。
「じゃ、また明日。
急に会いに来て悪かったな」
「……ううん、来てくれて嬉しかった」
まだまだ不器用なわたしたちだけど、きっとうまくいくって、なんとなくわかるの。
……この優しい手は、きっとわたしを離したりはしない。
「……、好き」
見送った自転車が角を曲がってから、ひとりごとのようにぽつりとつぶやく。
夕李の前ではまだ不完全だけど、素直に、なりたいの。……わたしだって、かわいくなりたい。
「お姉ちゃん、ご飯だってー」
玄関からひょこっと顔を覗かせたかの。
夕李がいないのを確認して声をかけてくれたらしい妹に「今行く」と駆け寄って、家の中にするりと身を入れる。
「お姉ちゃんしあわせそうだねー」
「……ふふ、まあね」
ドアを閉じる瞬間に、ちらりと隙間から見えた月は。
やっぱり、とても綺麗だった。