【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
「……なんか、綺世とヨリもどすとかいう以上にひのちゃんの過去が壮大なんだけど」
「偶然声掛けてきた男が気づいたら有名な芸能人になってただけよ。
いまは綺世がいてくれるから十分なの」
せっかく、そう言い切って話は円満に終わろうとしていたのに。
テーブルの上に置いていたスマホが着信を知らせたかと思うと、相手は『三崎 結乃』。察していただけるだろうけど、ユノの本名だ。
「ひの? これってもしかして、」
「……口悪くなったらごめんね」
この男は電話に出なければ間違いなく家に来る。
彼氏がいるとかそういうことお構いなしに来る。それこそ週刊誌にとられてもめんどくさいし、仕方なく電話に出るしかない。
画面を撫でて、もしもしと口にしようとすれば。
先に向こうが『遅ぇ』とつぶやくから、やっぱりテレビの向こうのあいつは偽物だ。
「昨日も連絡してこないでって言った」
『ああ、なんか男作ったとかいうやつ?』
「……だから連絡してこないで。
マネージャーさんにもわたしに連絡するなって言われてるでしょ」
『マネージャーなんかほっとけばいいよ。
……やっぱり俺はひのがいい。じゃなかったら、わざわざ男いる女に連絡なんかしねえだろ』
「なら潔くあきらめて。やり直す気はないから」
わたしたちが別れたのは、わたしが中学3年の時だ。
向こうはデビュー前、わたしは受験前。利害の一致であっさり別れてそこからは連絡なんてなかったのに、どうして今更連絡してくるのかわからない。
この間ひさしぶりに掛かってきた時はびっくりしたけど、そこからは10日ほど、毎日のようにかかってきてる。
やましいことはないけど綺世には誤魔化していたのに、いい加減やめてほしい。