【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
顔の熱さを誤魔化すように、ミルクティーのストローに口をつける。
ちゅー、と吸い込めば当たり前にそれは冷たくて、ほんのりした甘さに少し心も和らいだ。
「……そろそろ行くか」
すこし待っている間に、入場開始時刻になる。
やっぱり周りは女の子ばかりで来ている人が多くて、カップルもほんのひと握りしかいない。
特に夕ちゃんはその中でもかっこよくて目立つから、隣にいることになんだか縮こまってしまった。
……お姉ちゃんが隣にいたら、とってもお似合いなのに。
「かの?」
かのが隣にいると釣り合わないって思われそうで、足がすくむ。
夕ちゃんのことを好きな気持ちは変わらないのに、どうしてもまわりの目を気にしてしまう。
なんでもさらっとやってのけるお姉ちゃんと違って、昔からわたしは引っ込み思案だった。
お姉ちゃんの後ろについて行くことで、不安をかき消そうとした。……実際はかき消せたわけじゃなくて、ただ見ないフリをしてただけなのに。
「どした?暑さで気分悪くなったか?」
「う、ううん。へいき」
夕ちゃんに心配を掛けないように、ふるふると首を横に振る。
席についてからも夕ちゃんはわたしのことを不安そうな目で見ていたけど。
「……なんかあったら言えよ」
あきらめたのか、それだけ言って映画の予告や忠告の流れるスクリーンに視線を向ける。
それに思わず、ほっとしてしまった。
「……ごめんね」
好きなのに、近づきたいのに、手を伸ばせない。
お姉ちゃんと付き合っていた夕ちゃんがかのと一緒にいることで、誰かに幻滅されると思うと怖かった。