【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
みんなは、すごく優しいから。
いまもわたしのことなんて見捨てないで、そばにいてくれる。
……それはわたしにとって、すごくうれしいことで。
ほかの女の子たちにとっては、何よりも気に入らないこと。
「今日は綺世、機嫌悪いね」
彼に手を引かれたまま教室へと向かっていれば、ふと耳に入る万理のつぶやき。
機嫌悪いの……?と相も変わらず綺麗なその横顔を見上げてみるけれど、いたっていつも通りで不機嫌さは感じない。
「まあ、ほら……
音(のん)ちゃんのこと、大変だろうしー」
「……まさか音が、ねえ」
ぼそぼそと、後ろで会話するほかの4人。
わたしに聞こえているんだからおそらく綺世にも聞こえているんだろうけど、彼はしれっとした顔で教室までたどり着いた後、優しくわたしの手を離した。
「ねえ、"音ちゃん"って……?」
綺世がするりと自分の席に向かい、それについていくのは万理とゆゆ。
ふたりでゲームするらしいみやとそなたに近寄って小声で聞けば、ふたりは顔を見合わせて渋るように視線を逸らした。
「……もうひのは百夜月の人間じゃねえから、
正直あんま言いたくねえんだけど〜」
あんまり言いたくない、と口にする割にはゆるやかな笑み。
一瞬言葉につまずいてから「うん」と小さくうなずけば、「裏切ったんだよ」とそなたが一言。
……裏切った?
「音ってのは、いまの綺世の彼女〜。
まあ、百夜月の現お姫様なんだけどな〜?」
「音が、ほんとは俺らと敵対してるチームの男と付き合ってるってことが昨日わかったんだよ。
まだ俺らが気づいたことを音は知らねーけど、こっちの情報流されてるっぽいからマジで綺世がイライラしててやべーんだって」