【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
「かなり気ぃ抜いて話してたじゃねえの。
……ちょっと意外だったんだわ」
俺らの前のひのは、あんなに素を出した感じではなく、それなりにコミュニケーションが取れる人受けのよさそうな性格で。
だけど彼氏の前でのひのは、自由気ままでマイペース。……でもそのマイペースさは、嫌いじゃない。
「彼氏の前ではちゃんと彼女やってます、っていうイメージ強いんだよな~。
……あんなにマイペースに付き合ってるってことは、相当仲良いんだろうねえ」
素の自分を見せようとすると、相当な勇気がいる。
その欠片すら見せないほどにあれだけ気を抜いてるのは、たぶん昔からの知り合いって特権だ。
いい女だな、とたまに思ったりもする。
美人で、人当たりが良くて、俺らに色目なんて使わない。ごく普通にそばにいて、でも誰よりもほかのヤツの痛みをわかってやれる女だから。
「……綺世?倉庫行かないの?」
綺世が惚れたのもわかる。
……きっとひのは、「そんなことないわよ」って否定するんだろうけど。
「……音のところ行ってくる」
「ああ、うん。いってらっしゃい」
「……今日は適当に解散でいい」
電車を降りて駅前で方向転換したかと思うと、そう言ってひとりだけ別方向に歩いていく綺世。
その後ろ姿を見て、小さく苦笑に似たような笑みが漏れた。
「あいつ機嫌悪いねえ」
「……誰だって元カノの彼氏とは対面したくないんじゃない?」
そういうもんか、と自分を納得させて、ずっと黙り込んでいる相方を肘でつつけば舌打ちされた。ひどいねえ。
……ずっと好きだった女が自分の尊敬してる男と別れて別の男と付き合ってんなら、そうもなるのかもしれねえけど。