【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-



まあねえ?と笑ってみせれば、誰からともなくあきれたため息を返される。

遊ぶような相手も特にいねえけど、だからって女に本気になりたいわけでもないし。



「僕はそなちゃんよりも、そうやってふらふらしてるみやちゃんの方が心配だよー?」



「心配しなくてもなんとかなるよ~」



恋愛したいわけでもねえし、生涯独身とかでもいいな、とぼんやり思う。

どうせ何年経ったってこいつらとは一緒にいるんだろうし、結婚より仕事を取る一生でも俺は構わない。……ひのは、案外ロマンチストだから結婚とかしたいと思うけど。



「……やっぱ素でいられる人間の方がいいのか」



そうなれば気を張らない相手の方が一緒にいて楽なんだろう。

綺世の前のひのは、一生懸命彼女らしく振る舞おうとしていたし、そういうのに疲れたってのもあるかもしれない。……そもそも。



「綺世とひのって、なんで別れたんだよ~」




俺らは、どうしてふたりが別れたのかを知らない。

綺世は、「ひのがそれを望んだからだ」って何もかも受け入れたような言葉で俺らに説明したけど、そんなの間違いなく嘘だ。



それが必然であったかのような言葉で穏やかになだめられたところで、たかが知れてる。

あいつとの関係が半年で終わったとしても、俺らの関係はもう何年も続いてんだよ。



「あいつマジで俺らのことなめてんだろ」



俺らが望んでるのは、あいつの本心だ。

間違いなく"そう"だと思わせるその言葉を、あいつ本人から聞けないのなら何も意味がない。俺は、ひのをただ純粋に想う綺世も、当たり前のように綺世のそばにいるひののことも好きだった。



鳴海綺世は、どこまでも特別な人間。

百夜月のトップに立った以上、逃れられないその現実。──だからこそ。



そばにいられるのは、当たり前なんて言葉じゃ軽すぎるほど、特別でどこまでも大事にされた存在。

だけど、それを当たり前だと思わせてしまうほどに綺世が認めた、百夜月が認めた、唯一の人間。



それが、俺らにとっての"姫"という存在だった。



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