【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
誰にも真似出来ない唯一無二の、綺世の彼女。
ひのだから、受け入れられて。ひのだから、姫になれた。
まだ俺らにとっては特別な存在であることが、どれだけひののいた百夜月が有意義なものだったかを証明してる。
ひののいない百夜月なんて、7代目とは決して言えないほどに。……ずっとずっと、特別。
「……大事だからこそ言えないんじゃない?」
夏の暑さとは程遠い、桜が舞う春のようなやわらかい雰囲気で。
ゆっくりと告げた万理の言葉を深く理解しようと、脳を働かせる。
「……、それはお前の経験談?」
「経験談っていうか……
大事にしたい存在ほど、大事にしようと思えばうまくいかなくて空回りするんだよ。俺の場合は、たとえうまくいくものだとしても、世間がそれを許してくれない」
同じ人間なのに、理解し得ずに仲違いを起こす。
すべての人間が平等だと思える世界が本当にあるのなら、格差も身分も戦争も起こったりはしない。感情のある人間なのだから、それはきっと当たり前で。
「黙ってた方が平和だったりもするからね」
すべてが平和なら、たぶん人間に感情というものが必要のない世界になってしまう。
そこに人を思いやれる力があるかどうか。……ただそれだけで、人間は仲違いを起こす。
「……ただ、俺はさ」
夏を遠くに感じさせる春の雰囲気。
万理の言葉は、やけに心に染みるから、いい意味でも悪い意味でも感情に響いてくる。
「それでも伝える方が正解だと思うんだよね。
そこにあるのが正義でも優しさでもなくて、同情の言葉でもあきらめを諭されたとしても。……伝えなきゃ、会話ははじまらないし、感情は伝わらないから」
いくらがんばっても、相手の思ってることすべてがわかるわけじゃない。
そこにどれだけの信頼がある関係でも、お互いの感情を100%理解することなんて出来なくて。
伝えなければ、はじまることすらないから。