【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
万理の選ぶ選択肢は、いつだってまぶしくて尊い。
つらい現実が待ち受けようとも受け入れるその気持ちは、絶対俺には真似出来ないからただ純粋にすごいと思える。
「ひのちゃんとの関係を壊すのが怖くても、たとえ彼女に彼氏っていう存在がいてもさ。
……ひのちゃんは間違いなく、そなたの言葉を無駄にする子じゃないでしよ」
痛いほどに、他人の気持ちを理解してくれる。
どれだけそこに痛みや悲しみがあるとしても、どこまでも強く、まっすぐに。
「俺は言ってもいいと思うよ。
もし言うことでそなたとひのちゃんの関係が悪くなるってわかってたら、俺らは勧めたりしない」
「……んなこと、わかってるよ」
「それならいいけど」
万理が薄く笑みを浮かべて「ついたね」と口にすれば、途端に肌に感じる夏の太陽。
汗ばむ肌に何度目かのため息をこぼして、倉庫の中へ足を踏み入れると各方向から飛んでくる挨拶と、トップがいないことへの疑問。
「綺世なら、音のところだよ」
「……ああ、色々ありますもんね」
「……不器用だからね」
好きだと言えば手を伸ばせるはずのもの。
考えて考えて、考え抜いた結果うまくいかなくて、ばらばらに引きちぎれて散らばった感情たち。
「……近いうちにひのちゃん来るから」
「了解っす……!
中学生とか声掛けときますね。……ひのさんに会いたいやつ、いっぱいいますから」
いい話で来るわけではないと、わかってるはずなのに。
うれしそうにそう返事するのを見て、小さく笑う。……やっぱりうちのお姫様は、俺ら幹部にとっても下のヤツらにとっても、ただひとりだけだ。