【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
どれだけ周りから言われたって決して自分から話してくれない彼が、唯一自分から相談に乗って欲しいと声をかけてくるのはわたしだけ。
それを知っているからみんなは遠慮してついてこなかったんだと思うけど、本人はたぶん気づいてない。
「……わたしの言い訳はしておいてくれるかもしれないけど、みやの分はしてくれてなかったりして」
「はあ〜?
……でもありえるな〜。あいつらひのちゃんのこと溺愛してるし?俺の扱いひどい時あるし?」
「冗談に決まってるじゃないの」
そんな風に間に受けられても困る。
くっと眉間を寄せて困った顔をするわたしにけらけらと無垢な笑みを見せた彼が、教室が並ぶ廊下に差し掛かる直前で手をほどいた。……あ、と。
「お、ゆゆちゃん〜。
……ん〜?どしたの、んな顔して〜」
おどろきを声にする間もなく、ただただいつも通りに振る舞うみやを見て、なんだかすこしだけ悲しくなる。
それすら彼に伝えられないまま、困っているような泣きだしそうななんとも言えない表情のゆゆを、同じように見つめた。
「今日急にバイト入れないかって、
マスターから連絡があったんだけどー……」
「? んなの、いつものことじゃねえの。
いつもならすぐに行くって返事してるだろ〜?」
「それがね、今日──」
「──ひのちゃん、音が今日の放課後時間取れるらしいから。
例の作戦、今日決行しようと思ってるんだけど」
大丈夫?と、教室から顔をのぞかせた万理が言葉をさえぎったことに気づいて、ゆゆに謝罪の言葉を口にする。
どうやらゆゆがバイトの急な連絡を渋っている理由もそれだったようで、彼はふるふると首を横に振った。
「こんな時にいくらなんでもバイト行けないんだよ、ねー。
ばんちゃんも、僕がバイトない日で音ちゃんに約束取り付けてくれたみたいだし……」
「……ゆゆ、バイト行きたいなら行ってもいいよ?
俺らはちゃんとそれなりの対応取るつもりだし、ゆゆにも連絡回してあげるけど」