【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
ええと、と。
途端に慌てたように挙動不審になるスミの名前をもう一度呼んだら、小さな声で「ごめんなさい」と謝る。……謝って欲しいわけじゃ、ないんだけどな。
「まだ、ほかの女の子はだめなの?」
「だって俺は……
ヒノがいれば、それでいいから……」
「……それはうれしいけど、だめよ」
いくらなんでも、わたし以外の女と関わらないなんてそんなこといつまでも出来るわけじゃない。
優しくなだめたら「わかってるよ」と顔をうずめてくるから、ぎゅっと抱きしめてあげた。
「アスミ~?
どさくさに紛れてひのの胸に顔埋めてんじゃねえよ~。……綺世に怒られんぞ」
「なっ、違っ……!
べつにそんなの狙ってたわけじゃ!」
ばっと勢いよく離れて身振り手振りで無罪だと主張するスミにくすりと笑って、「わかってるわよ」と言えば、ジトっとわたしを見てくるみや。
相変わらずスミに甘いわたしに、なにか文句でも?
「アスミもひのちゃんのこと好きすぎだよ。
……言っとくけどひのちゃん彼氏いるからね?」
「!?」
え!?と。目を見張るスミに、そういえば言ってなかったっけ?と思い出す。
スミとは普段会わないんだから、彼が知ってるわけないし。まだ中学生だからケータイを買ってもらえないらしく、メッセージのやり取りもしない。
「アスミどーんまい。失恋だな」
「うるさい……! ヒノ……!
なんで男つくってるんだよ……!」
俺がいるのに!!とそのセリフすら可愛く思えてしまうのだから、スミが恋愛対象になることはないんだろうと、薄らわかってる。
ただその事実を伝えて彼を悲しませるのも嫌で、黙っていることが苦だとわかっていても、伝えてあげられない。……ずっと。