【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
スミはわたしのことが好きだと、何度も何度も伝えてくれていたのに。
……それに向き合うだけの覚悟を持てないのは、わたしの方だ。
「随分と楽しそう。
……どうしてここに、女の子がいるの?」
──とつぜん。
男の子ばかりの百夜月の倉庫内でひときわ目立つ女の子の声がしたかと思うと、綺世の隣にはかわいらしい女の子。……彼が迎えに行くと言っていたから、この子が"音ちゃん"だ。
「そろった、ね。
……ひのちゃんも、行こうか。幹部室」
「わたしの問いかけは無視?万理」
「無視じゃないよ。……行こう」
ちらりと万理の表情を伺えば、やっぱり彼はなんとも言えない表情だった。
続けようとした言葉を呑み込んで促されたように2階へ向かおうとした瞬間、くっと引かれる手。
「……俺はヒノの味方だから」
そんな表情をしなくたって。
わたしは彼らにすこし手を貸すだけなのに、おおげさだ。大丈夫、とやわらかい黒髪を撫でてみんなをその場に残し、幹部と彼女とわたしだけが幹部室に向かう。
ひさびさに訪れたその場所は。
……わたしがいた頃と、何も変わってない。
わたしの置いていた荷物がすっかりなくなって、部屋がすこし広く感じる程度。
綺麗な思い出しか、残ってない場所だから。……ひどく泣きたくなったけれど、喉の奥に浮かぶ熱い感触は、涙になる前に無理やり消した。
「……音も色々思うことあるだろうけど。
綺世から話を聞くのが、いちばんいいかな」
「……ああ。
音。ずっと言おうと思ってたことがある」
万理から言葉のバトンを受け取った綺世が、言葉をつなぐ。
音ちゃんは視線をそらさないまま、じっと見つめ返した。……万理はわたしをまっすぐだと言ったけれど、わたしよりも、きっと音ちゃんの方がまっすぐだ。