【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
そう考えるとわたしも彼女も綺世のことを好きではないのに、建前上彼を取り合っている状態。
不思議な関係だなとぼんやりしていたら、こてんと首をかしげた彼女に、顔をのぞき込まれた。
「……聞いてる?」
「あ、ごめんなさい……
ちょっとぼーっとしてて……」
「うん、まあ、突然好きな人の彼女に拉致されたらびっくりするよね。
……綺世から、わたしの話聞いてる?」
「ちょっとだけ……
でも、綺世は『音とはすぐ別れるから』って」
追放するための建前の彼女という設定だから、ここまで詳しい打ち合わせはしてない。そもそもここに拉致されるのも予想外だったわけだし。
なんとなくで話を合わせてそう言うわたしに、音ちゃんはくすくす笑う。
早速なにかやらかした……?と。
すこしばかり、不安になっていれば。
「漫画とかドラマでよくある、不倫してる男のセリフっぽいよねそれ。
奥さんとはすぐ別れるからって不倫相手に言うんだけど、結局は建前の言葉だけで、別れるつもりはなかったり」
「………」
「……わざわざ彼女の前に連れてくるんだから、別れるつもりがないってことはないんだろうけど。
綺世って文句のつけようがないくらいいい男なのに、こういうところほんと残念」
女関係にだらしなさすぎ、と毒づいた音ちゃんが、ぐっと伸びをして。
「でもやっぱり好きなんだよね」と告げるその様子が、どうしても嘘には見えなくて、息が詰まる。
……ほんとに、裏切ってるんだろうか。
こんなにも、綺世の話をしあわせそうにする人が。手のひらを返すようなことを、するだろうか。
「わたし、綺世と別れるつもりはないけど……
綺世が好きって言ってる女の子に離れるななんて言わないから。思う存分、綺世と好き合ってくれればいいよ」
「……どうして、」