【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
「ついてるなら言ってくれたらいいのに、」
「たまにはお前のそういう顔見るのもいいかと思って」
「そういう顔ってなに……」
「いいだろ。
恋人らしいことしろって送り出されたんだから」
託言、言い訳、口実。……全部、俺の傲慢。
拭って指についた生クリームをぺろっと舐めれば広がる甘さが、喉を締め付けるようで俺を逆に息苦しくさせる。吐き出したため息はまわりの喧騒に掻き消されて、目の前の彼女にすら届かない。
「……変なこと聞いていいか?」
「変なことって言われてるのに「いいわよ」って了承する人なんか滅多にいないと思うわよ。
……まあ聞いてあげるけど。なに?」
そういう態度も、昔から変わらない。
俺の前では特別甘えてくれるわけでもなかった。いつだって真っ直ぐで芯という名の強さを持っている印象が、ひどく残ってる。
「……あのとき俺が別れないって言ってたら、」
──もしも話は、好きじゃない。
特に過去に関する話は、俺が後でどうこう話したところで、結果が覆ることなんかないから。終わったことは終わらせた方が容易いのだと、知っていたのに。
「いまもお前は、俺の隣にいたと思うか?」
それが出来ないなんて、ばかみたいに入れ込んでる。
透明なガラス越しに閉じ込められたみたいだ。向こうの景色も触れたい人も見えてはいるのに、触れられなくて、言葉は交わせるのに、ぬくもりを分かち合えなくて。
「……綺世らしくない質問ね」
自分に傷がつくことをわかっている上で、そのガラスを壊してしまえる勇気があったら。
……すこしは、あきらめがついただろうか。